幽霊になってしまった男の話 asin:B00007CF9J

sutendo2005-10-05

花は見えないのに、狂おしい香りだけが体をつつみ込んでくるあの不思議な花の薫りが、この2,3日路地裏を歩くと、まとわりついてくるようになった。もうそんな季節なのか。花とはいえ、その天性の酔わせるような薫りを振りまくのみで、種一つ実らせることなく、樹下の地面を黄色くむなしく染めるだけの悲しい花。
10月の声を聞いてから、東京地方は気候不順で、曇りや霧雨が続いている。だからなのだろうが、今年のその花のにおいは例年にまして狂おしい。自分の書棚にはまだでてこない、あの作品の基調音を奏でるこの花の薫りで新しい秋が始まっているのはうれしい。
まだまだ開けられない段ボールは多く残ってはいるものの、身の回りに自分たちの世界が立ち上がってきて、ゆっくりと包んでくれている。華やかなどというものは望むべくもないが、今やっと、静かで安らかな自分たちの世界がたゆたうように、黄色い小さな花の匂いに包まれて始まっている。あとは自分たちでその世界をしっかり守っていかなければならない。「幽霊になってしまった男の話」を読むのは、その後でもいい。