時間旅行 「探偵小説四十年」と乱歩の思い出(仮)

石井春生さんのお誘いで、推理作家協会「土曜サロン」の傍聴者として、十一月十九日、八木昇氏による標記の講演を拝聴することができた。石井さんのお話では、前日までお話を渋っていた由にも拘わらず、たくさんの貴重な資料を示しながらの熱弁であった。さらに光文社版乱歩全集監修者の新保氏、作家の芦辺拓氏をはじめとする聴講諸氏の水準が高く、講師の危惧なさっていたよりも反応がよかったせいか、後半の質疑なども熱の籠もったお話を伺うことができた。公式には石井さんの報告があると思うので素天堂がらみ、興味を持ったことのみを書いておきたい。
とはいえ、高校時代から澁澤龍彦「黒魔術の手帖」を手始めに、「世界異端の文学シリーズ」、ポピュラーブックスでの都筑道夫作品。さらにあの偉大な「大ロマンの復活シリーズ」で、今なら文庫でも読める(ちゃんと探せばだが)ようになった忘れられた作家群の再評価を行った、芦辺さんのいうとおり、自分たちは桃源社の書籍で育ってきたといっても過言ではない、その桃源社の名編集者なのだから、頭から最後まで興味のない部分などない充実した三時間だった。
まず皮切りが「探偵小説四十年」製作秘話。乱歩さんがいかに編集制作そのものに拘わったか、本文のみならず、写真のレイアウトから装幀の材質に至るまで、その詳細をたくさんの一次資料を示しながらのお話で、現場にいた方のみが知る貴重な証言をたくさん伺うことができた。あっという間の二時間だったが、その後の質疑時間も、出席者諸氏の思い出話や古本話と絡んで充実の一時間でありました。素天堂のあやふやな発言に毎回的確な突っ込みを入れてくださった新保さん、ありがとうございました。いつものことながら、お誘いくださった石井春生さん、ありがとうございました。今度場所を変えて、澁澤さんと海外文学に関しての思い出などうかがえたら素晴らしいですね。