猟奇!ハレム!丸木砂土!

sutendo2006-01-21

 平凡社版 世界猟奇全集第十一巻「女の迷宮」ジャビダン妃殿下著 丸木砂土・和田顕太郎共訳

男として、あの“ハレム”に興味を示さないものがあろうか。それについては、著者自身「怪しげな空想」と語っているとおり、そういう妄想である種の理想郷を創り上げているのだ、野郎共は、今に至るまで。著者はヨーロッパ女性として奇跡的に、ハレムを統治したことのあるエジプト副王の妃殿下ジャビダンだという。しかも、訳者の緒言によれば、ピチグリリの「貞操帯」をすっ飛ばしてこの作品を選んだという。そのうえ、奥付にはマル禁の判子と赤インクでの昭和六年五月二十六日処分の書き込みが! もう、期待するしかない。タイトルのとおり、要素はそろっていた。
うーん、訳者緒言での作者の奇妙な経歴に胸を弾ませ、赤裸々な実態を求めて読み進むのだが、その内容は、読者の好色な視線を遮り、はぐらかすものばかり。確かに貴重な回想なのだろうが、女主人としての彼女の視線は、当然だが、ヨーロッパ人の観点であり、しかも、異端者でありながら統治者として君臨している関係から、その制度に批判的たらざるをえない。だって、正常な西欧女性だったらそんなハーレムより、夫との二人の生活が望ましいに決まっている。当然、書かれているのはハレムの内実なのだろうが、そこにこめられた視線が冷たいので、面白味がうかんでこないのだ。女同士の陰惨な対立はあったとしても、そこから巻き起こる「大奥マル秘絵図」的な猟奇味は薬にしたくとも現れてこない。確かに、今から見ても結構進んだ女性観の持ち主である著者が、前近代的なハレムにとけ込めるはずもない。如何にアラブ人としては進歩的だったかもしれない夫だとしても、彼女をヨーロッパ風に完全に処遇することなど望むべくもない。その知的感性は鋭いし、回教の制度に関する興味もあって、確かに珍品ではあっても、残念だけれども、とにかくおもしろくなかった。妄想は、やっぱり妄想でおいておくべきで、アングルの「トルコ風呂」だとか、モネの「オダリスク」で我慢するしかないのだ。