「アルゴールの城」の読み方もしくは、悪徳委員長の犯罪について

「青柳瑞穂の生涯」を読んで、そういえばと魔窟を探ったところ、クロースで改装した白水社版「アルゴール」を発掘できた。この本は澁澤の「夢の宇宙誌」ルイ・ヴァックスの「幻想の美学」とともに、高校時代から、手放すこともなく手元に置いてきた数少ない本の一冊なのである。
いずみこ氏の言葉に、誤訳云々の件があったので、この際確認してみようなどと、邪な意図で読み返すつもりで、勿論原書などあるわけがないので、安藤元雄氏の新訳との読み比べなど思い立ったのである。ところが、所期の目的などは読み進むうちにどこぞに飛んでしまい、結局、読みふけってしまった。そこで考えたのが、なんで、こんなややこしい作品を、高校時代の自分は読めたのだろうということだった。うーん、確かにその当時、今考えてもめちゃくちゃな読書生活を送っていたとは思うのだが。授業中新刊のクロソウスキー「肉の影」を隠れて?読んでいたり<おもしろかったのか? その頃の自分。
素天堂、実は高校時代図書委員長というのをやっていたのだが、とんでもない悪徳委員長で、授業をさぼって図書室に籠もったり(鍵を預かっていたので)、卒業時の単位取得のレポートを書くのに図書室の資料を独占したり、悪徳の限りを尽くした。その図書室は決して大きなものではなかったが、蔵書が個性的で、例えば、白水社の「新しい世界の文学」(カルヴィーノ『木登り男爵』マンディアルグ『オートバイ』ユルスナル『ハドリアヌス帝の回想』)がそろっていたし、創元社版の赤い装幀の「世界探偵小説全集」(クレイトン・ロースン『帽子から飛び出した死』)や東都書房版の「日本推理小説大系」(虫太郎『黒死館』!)などはここで読んだ。 どうです? 結構いい品揃えでしょう?
そこにこのピンクのクロースで改装された「アルゴールの城」はあったのである。生意気な図書委員長は、多分、そこに書かれた奇妙な雰囲気にのめり込んだのかもしれない。図書室では読めない河出版の「人間の文学シリーズ」でバタイユの「マダム・エドワルダ」に夢中になったり、「迷宮としての世界」に読みふけったりしていたから、何の素養もないとはいえないかもしれないが、それにしても、よく読んだものだ。あげくに、今、この手元にその本があるということは…… 
そう、これが多分、委員長最大の犯罪であろう。改装までして大事に保存していた、司書の先生、本当にごめんなさい。