雑誌の魅力 新青年残香(一)

sutendo2006-03-17

最近の「UNCHARTED SPACE」by フクさん で体臭文学館の話題がでていたからではないが、なんとなく、こんなタイトルにしてみた。
この日記に遊びにきてくれる方々なら「新青年」というキー・ワードは、先刻ご承知だと思うし、立風書房版の大冊を始め文庫本に至るまで、数多のアンソロジーによってその雑誌としても、発表された作品群としてもその魅力は語り尽くされている。屋上屋を重ねるつもりはないけれど、自分にとっても重要な雑誌なのでその雑誌について一寸話してみたい。
素天堂がその雑誌の名前を知ったのは、ある洋酒メーカーの発行する冊子であった。今でもその会社はイメージ戦略が巧みなのだけれども、その当時から“宣伝”という事業に力を入れているメーカーであった。高校時代でもあり、まだ酒を店で飲むなどということは知らなかったけれども、それでも「トリス・バー」という魅力的な大人の遊び場があることは、TVコマーシャルや広告で知っていた。アルバイトで、ある運送会社の経理事務を手伝っているときのことは、前に古本話でチラッと書いたことがあったのだけれど、その月例の集金業務にこの会社の経理訪問が含まれていたのである。日本橋の老舗の飴屋さんに間借りしていた東京支店、それでも当時からそのビルの大部分を占めるテナントだったはずだ。そんなある日、エントランスの中央部に台がおかれて、その上にたくさんの雑誌のバックナンバーが積み上げてあり、「お自由にお持ちください」と書いてあった。その雑誌は「洋酒天国」。カウンターで無聊をかこつ、常連さんのための酒の友としての小冊子であった。
その魅力については、こちらでhttp://www.kurageshorin.com/yoten.htmlお読みいただくとして、中学生時代から、「漫画読本」「ヒッチコック・マガジン」の愛読者であった素天堂にとって、コラムばかりでできているようなこの雑誌は、降ってわいたような天のお恵みであった。その山は雑誌が休刊になり、在庫のバックナンバーを放出したものだったのだが、その中の一冊にこんなのが混じっていた。その頃いわゆる「リバイバル・ブーム」というのがあって、歌謡曲やポップスの世界を始めとして、戦前を“古き良き時代”として再評価する風潮が盛んだったことがある。そんな風潮の尻馬に乗ると称して新生再開第一号として、主な記事を「新青年」から再掲載するという実に素敵な特集なのであった。以後集めた分も含めてほとんどのバックナンバーは処分してしまったが、これだけは手放せなかった一冊だ。
他に紹介もされていないようなのでまるで宝物蔵のような目次を再録する。筆者のあとの*はこの特集のための新稿。
リバイバル談義……柴田辰男* / ジャズにおけるリバイバル……油井正一 和田 誠挿絵* / TEN・YENの憂鬱……岡田時彦 伊坂芳太良挿絵 / 聖林のスウ……松井翠声 / 日本一になりたい……飯田蝶子 / ガルボ退米……南部圭之介 / 目で飲んだ名場面*(映画の中の酒飲みシーン紹介)/ モダン流言蜚語録……陶山密 / 三鞭酒……石川欣一 / 酒の弁・食の弁……中村研一 / カクテル古典本……春山行夫* / ヴィンテージ・カー……浜 徳太郎* / 変なリードル……川上澄生*木版再録 / 阿呆宮(抜粋)/ ヴォガンヴォグ(抜粋)/ 十年前の新青年……森下雨村(s4/1)/ 渡辺温君のこと……横溝正史* / 新青年思い出噺……水谷 準* / 無礼な企業……谷 譲次 伊坂芳太良挿絵 / 巴里見世物案内……森 岩雄 / 泰西出鱈目旅譚……クロード・リューク 樺山楠夫訳 / 亜米利加の王者アル・カポン……澤田 謙 / エッグ君の鼻……ドロシイ・セイヤーズ 黒沼 健訳 粟津 潔挿絵 / 紅毛傾城……小栗虫太郎 高井貞二(オリジナル挿絵)
酒席の慰み物とはいえないこの質の高さを見てほしい。新稿にしても、いずれも名エッセイである。高級な遊びとしての雑誌編集の見本が「新青年」だったとすれば、これは見事な後継誌だったと思う。最後に素天堂に映画の見方を教えてくれたあのコラムから

■老いも愉し
《ただ一度だけ》ってはやりうたか、うむ。あれは「会議は踊る」ってえオペレッタにでて来よった。リリアン・ハーヴェイがかわいいイットを発散させよってな。イットって知らんやろ、フフフ。猫もシャクシも唄ったもんだ、《ただ一度だけ…》となあ…おぼえとるおぼえとる。“ウィーンとワイン”は《新酒の唄》よ。五月は春に一度しか来ぬ。ただひとたびの青春を、新しきぶどう酒の杯高くかかげて乾杯! これがあの活動の精神やで。いまどきの若いもんにゃわからんやろ、この心意気は……少年老イヤスク学ナリガタシ……酒ハ呑ムベシノムナラバ……と、ウイ……(だいぶ酔ったわネ、オジサマ)