戦争の前とあと そして、ロシアの皇帝とアメリカのセールスマンとウィーンという街

皇帝円舞曲【字幕版】 [VHS]

ビリー・ワイルダーの初期のカラー作品「皇帝円舞曲」を絹太氏がとっておいてくれたのをみていて、あ、これは戦争前の傑作オペレッタ「会議は踊る」へのワイルダーなりのオマージュなんだと思った。勿論フランツ・ヨゼフ皇帝がアメリカ人のセールスマンと恋の一夜を過ごしたり、頬を寄せ合ってワインセラーで唄ったりはしないが、平民と貴族の恋のおとぎ話だと思えば、共通点は一杯出てくる。宮殿に入ったビング・クロスビーの持ち物が爆弾と間違えられるエピソードとか、チロルの山荘へ向かう道行きで唄うビングの長めの唄なんかはみていて「唯一度だけ」にすぐ思い至った。馬車に乗ってれば“まんま”だったのに。
「会議は踊る」でのクリスチーネの恋は悲恋で終わるが、「皇帝円舞曲」のアメリカ人セールスマンと若い貴族の未亡人ジョーン・フォンティーンは紆余曲折の末、まとまってゆく。まあ、お約束だし、生ぬるいと思うかも知れないけれど、ウィーンに帰って映画を作れたワイルダーの想いからしても、やっぱりハッピーエンドにしたかったのだろう。みんな、ワイルダーの作品としては、あんまり褒めていない作品なんだけれど、素天堂的にはツボですね。皇帝はかわいいし。こういう映画を見ると、日本の映画人は、上流階級がほんとに撮れないなあと思う。多分まだ街中は瓦礫の山で(「第三の男」参照)、街頭ロケなんか撮れなかったのだろうが、それを埋め合わせてあまりあるチロル風景だった。それにしても、素天堂の訪れたウィーンの街はあの瓦礫の山から再興させた街並だったのだな。