一冊の生き残り

あづまひでおに夢中になり始めたのは月刊『プリンセス』連載の「おしゃべりラブ」だったろうか。もう『少年チャンピオン』連載の「ふたりと5人」は五巻までくらいが刊行されていたはずだから、七十七年頃だった。それ以来『幕の内デスマッチ』まで十年近くぴったりとくっついて生活してきていた。多分そんな関係からかも知れないが〈マンガそのもの〉に興味がでてきて、書籍とコミックの山に埋もれる生活がつづいた。積極的に関わることはなかったけれど、〈マンガ〉がサブ・カルチャーの代表から、日本文化の見本になってしまうまでを追いかけてきたことになる。そんな素天堂にとって米沢嘉博という存在は、身銭を切った先駆的名著群「戦後少女マンガ史」「戦後SFマンガ史」「戦後ギャグマンガ史」によって、重要なオピニオン・リーダーだった。勿論一般参加者として、炎天下の晴海でのながーい行列も忘れられない、ファンジンがらみで今でもお世話になっている「コミケ」とも長いお付き合いになってしまった。

いろいろな事情で、ほとんどの蔵書を整理したとき、過去のマンガ達とも訣別したと思っていたのだが、奥底にこんな昔がシミだらけで潜んでいたのを、その方の訃報を眼にしたとき思い出していた。素天堂如きが言上げせずとも、多分たくさんの思い出や、業績がこれからも語り続けられるだろうが、どうしても一言言っておきたかった。どうもありがとう、米沢さん、と。