さて、アニメーションだ。

sutendo2007-01-18

去年の「ハウルの動く城」に続いて、劇場へ来たのは「鉄コン筋クリート」だ。
広い空の拡がる街のてっぺんにいる一人の少年。その少年にかぶるように、幼さの残る別な少年のナレーションが重なって、ストーリーは始まる。広い空間描写が眩暈さえおこさせる、素敵なオープニングである。
街に育てられたという、廃車になったスバル360のヴァン型車に暮らす二人の少年達と、その街を食い物にしようとする大人達。それを取り囲む有機物のような街。その三者が入り乱れて、ストーリーは、ときどきガタガタ音のする、古いローラー・コースターの軌跡のように進む。原作の、粘土に釘で書いたような独特なタッチが主人公達のキャラに生かされて、背景になる街の地べたとてっぺんを、まるで重力の制限から解き放たれたかのように、目まぐるしく行き来している。その少年達と、地上にうごめく大人達との、奇妙な抗争とはいったい何なのか。
その鍵は彼らが自在に跳び回る〈宝町という世界〉にある。ゴミゴミして、統一感がなく、いつでもうごめいていたり、死んでいたりする。だけれど、その街がなければ僕たちは生きていけない。あのどこかで見たようだが読めない、字のようで字でない、外国人の第一印象に映った漢字のようなこの世界は、どこにでもあって、どこにもないあの二人の少年達によって造られた世界なのだ。だから、あの刑事達は、保護というおとなの名目で彼らの世界を突き崩してくるし、あのヤクザ達は経済効果という理屈で、そとから彼らの世界を浸食してくる。彼らのつくりあげた、夢の世界の破壊者なのだ。その強大な破壊者に立ち向かえるのは、少年達にとって、自分たちの合わさったネジのチカラしかなかった。一人〈保護〉された部屋でのシロの錯乱と、クロの恐怖心から形づくられた、凶暴なパステル画のような〈イタチ〉の実在は、彼らの世界への侵入者への最後の、悲しい防壁だったのだ。
壮絶な地獄絵の後の、海辺でシロが創る貝の巨大なオブジェは、彼らの身を挺して守った世界の模型であり、彼らの暮らしたガード下に芽吹くリンゴの木は、その守られた世界からの小さな小さな贈り物なのである。もちろん、そのあと彼らの世界が安らかに続いてくれるはずもないのは、あの巨大な「ガネーシャ」の象が「ハギア・ソフィア」のドームに変わっただけでしかないのを見てもわかるだろう。