紀田さんと荒俣さん 三十年の宿題

前回も書いた通り、その後、幻想世界にのめり込むようになったとき、その水先案内になってくれたのが、表記のお二人であった。お二人の編集された雑誌「幻想と怪奇」についてのエピソードを始め、書き出せばきりがない読者、享受者としての個人的な思い出があるけれど、その中でも、雑誌『幻影城』での応募作への紀田さんの評言は今でも忘れることができない。
そのうえ、その直後ご自宅へお招き頂いて一夜ご歓待をお受けしたのである。秘蔵の書庫を拝見させて頂いたり、コレクションの十六ミリフィルムの上映があったり楽しい晩を過ごさせて頂いた。さらに、その晩ご紹介頂いたのは、同年輩と言うことで、アマチュアながらもう既に精力的にお仕事をされていた、荒俣さん、横田順弥氏などであった。その晩紀田さんのお宅を辞去させて頂き、小田急線の駅までの道を行きながらの諸氏とのお話も楽しかった。
それにもかかわらず、自分の作業は遅々として進まなかったのはみなさんもご存じであるけれど、その日のことが三十年に渉って大きな宿題になっていたのはいうまでもない。
昨日、K氏のお陰で、特別開催の神奈川県立近代文学館でのお二人の対談の会に出席できることになって、発行中の個人誌をお二人に手渡せれば、半分も進んではいないけれど、宿題の中間報告にはなるかもしれない、と思った素天堂は、出発の時間ギリギリになって挨拶文を印刷して、その僥倖に備えた。直接手渡しは、いかにも失礼であり、受付の方に事情を説明して取り次ぎをお願いした。重荷を下ろした素天堂はゆったりとお二人の回顧譚を堪能し、『帝都物語』新作の基本理念などを伺って、あっという間の一時間半を過ごしたのである。
その後「埴谷雄高展」の不思議な世界を堪能し、先日入手した或る本が埴谷のお気に入りだったのに驚いたりして、中華街へと向かい、お気に入りの、いつもの店で、この季節の名品「酔っぱらい蟹」を堪能し、おいしい老酒を頂いて、微醺の中を帰宅したのであった。