せっかく買ったんだから、読まずとも開け! ということ 平凡社版『乱歩全集第5巻 孤島の鬼』

新春早々、恒例の松屋銀座古書の市。生まれて初めて(前世も含めて)館内放送の呼び出し、という大恥をかいたのはいいとして(詳細はK氏に暴露されています。この中からリンクを探してください)、久し振りの大盤振舞として平凡社版『乱歩全集 孤島の鬼』を買えたのは、まことにうれしかった。「題材的にも、長篇としては一番乱歩的な魅力に溢れていて、内容の所為で、戦後版にいろいろな問題を抱えた作品なのだし」等々、K氏の〈家に何冊もあるじゃない攻撃〉をかわすべく自己弁護を重ねた。当日はともかく翌日も、新年休みの最終日でもあり、地元の古書店でノンビリしてきた(収穫は本屋の鼠の通り道に数年おかれたままだった、可哀想な『曽我佳城全集』)のだが、やっと普通の生活に戻った今日、念のために光文社文庫版を開いて確認することにした。皆様ご承知、素敵な装幀の、文庫一冊で枕になるあの光文社版である。
江戸川乱歩全集 第4巻 孤島の鬼 (光文社文庫)

そして、新保氏鏤骨の解題を開いた瞬間体中を電撃が走ったのである。新字新かなではあるが〈本書は、平凡社版(略)を底本に〉とはっきり書かれているではないか。家の何処かにあるはずの、文庫版『講談社全集』を始め、創元推理文庫版、つい二、三年前に全巻まとめて入手できた、最初の大人版乱歩体験だった春陽堂版『全集』、没後最初の黒い箱入り講談社『全集』と、いま手元に置いただけでも三冊の収録本がある。そのあげくに、挿絵まで再録された光文社版を、入手して五年、今やっと開いての悲鳴なのでありました。少年時代に引き込まれた乱歩の随筆は、繰り返し読み返しはしていても、小説作品は、初読かそれに近い状態の印象のまま放置していたツケが、今、回ってきたのである。これに懲りて、これからちゃんと、光文社文庫版を読み替えすことにしても、手ずれで金が剥がれてまだらになった、戦前の平凡社版『全集』は、竹中英太郎のこの扉だけでもやっぱり素天堂にとっては〈特別な〉本なのだから。といってこの自己弁護の上塗りを終わりにしよう。