邸宅拝見講談拝聴

sutendo2008-05-06

先々週に引き続き、K氏が早くから予約を入れておいてくれた、〈上方講談界のプリンス〉旭堂南湖さんの「ふるほん講談」を拝聴のため、千駄木駅を降りたわれわれは、ひとまず一服、腹ごしらえということで、駅前の煉瓦壁「千駄木倶楽部」。内容の濃いボルシチをはんちくな牛肉談義と共に終わらせて、会場の大正八 年建築の旧安田楠雄邸へ向かいました。

まだ若干開場には間があったが、門をいれて頂く。鬱蒼とした立木と比較的こぢんまりとした間口のために宏壮という感じからはほど遠いものの、趣味の良さが感じられるエントランスでした。入場手続を終えたK氏の後から、下足を預けて会場の玄関を跨ぐと、そこは、まるで別世界。大正期の富豪邸を肌で感じながら、奥まった広間の会場に案内されました。座布団が用意された広間には、正統的な五月人形が飾られ、それも眼福。畳六枚を横に並べた細長い別室(多分配膳室だろう)との境の襖が外され、そこに演台と釈台が準備されています。後日「ミステリ・チャンネル」での放映もあるということで照明も行き届いていました。
南陀楼綾繁氏の開会挨拶に引き続き、本日のメイン・イヴェントの主、南湖さんの登場であります(その出で立ちは、上の写真中央奥の着流しの方がそうです)。タップリとしたご本人の前説があり、講談初心者の方もあり、見本として、古典講談の柔らかい、ユーモアタップリの仕方話「本多佐渡 茶の湯接待(素天堂仮題)」をまず一席。まずはK氏、大喜び。続いては明治期のホームズ翻訳から「禿頭倶楽部」。何人かの後からライトの当たる該当者を見据えながらの口演は、さぞやりづらかったことでしょうが、ご当地ネタを存分に取り込んだ演目は、やっぱり面白かった。ここで休憩。ナショナル・トラストの方の挨拶との後、ご案内で館内を一巡り。和風とはいえ、大正期のモダン・デザインを存分に取り込んだ各所の構成や、家具などに往時の隆盛を偲ばせるものが濃く残っており、建築好きの素天堂にとっては至福の時でありました。
会場の広間に戻って、今度は黒の紋付き袴の正装で登場の南湖さん、本日のトリである「蠅男」の一席。素天堂にとっては、MYSCONに続いての再会なのですが、海野十三の創り上げた帆村荘六(ほむらそうろく)の活躍するジョルジュ・ランジュランも顔負けの奇想ミステリであります。ネタの面白さもさることながら、登場する迷探偵の大活躍は、三十分を超す長丁場を飽きさせません。合間合間に行われた酒井七馬作の紙芝居「原子怪物ガニラ」の血湧き肉躍る超絶展開と、本人の落胆振りが甚だしかったが、参加者には楽しめた「振り市」についてはどなたかが、お書きになるでしょうから、こちらでは割愛させて頂きます。
会も果て、再び邸内を拝見しながら、小雨のパラつく道路に出てK氏の漏らした「原作付きの作品の構成の難しさ」は、素天堂も楽しみながらも共感しておりました。会場のすぐ後にいらしたOさんの漏らした「千駄木駅近所の〈不思議はてな〉が面白い」との言葉を耳ざとく聞きつけた二人は、小雨にもめげず通りの向こうへ。二階のお店で品揃えの確かさと値付けに感動しつつ、気の狂った素天堂は思わず六点のお買いあげ。ちょっと熱の上がった素天堂の熱冷ましに、帰りがけの甘味喫茶で一服、帰路についたのであります。