三本の遺作?について 〈ミステリ映画〉一九七二年の奇蹟


先日、赤坂の〈ですぺら〉で散々、ピーター・シェーファーの脚本を始めとして、その魅力を言い散らしておきながらその映画『FOLLOW ME!/ Public Eye』1972 がDVDどころか、ヴィデオでさえ入手不能だったのには驚いた。『第三の男』の名監督キャロル・リードの遺作にして、地味であっても魅力的な、ミステリ版「ロンドン案内」でもある作品をTV放映以外では見ることも出来ないとは。
前回リンクさせて頂いた、葉月さんのサイトをお借りしているコーナーでは偉そうなことを書きながら、双子の兄弟、ピーターとアンソニーを取り違えているのに気がついた。
取り違えたアンソニーの脚本で再起して奇しくも遺作になってしまったのが、ジョゼフ・L・マンキウィッツの大名品『探偵スルース』。名優ローレンス・オリヴィエと互角に渡り合う若きマイケル・ケインの白熱戦は、今でも色あせることはないだろう。マイケル・ケイン自身『死の罠デス・トラップ』で、若きクリストファー・リーブを相手にその立場を代えて見せたが、残念ながらあの凝縮した世界を再現することは出来なかった。先日のその会で、この作品のリメークについて聞いたけれども、映画版『魔笛』で、見事な別世界を見せてくれた才人ケネス・ブラナーもオリジナルには及ばなかったようである。この作品は、かろうじてセル・ヴィデオがあって現在でも入手可能なようである。
そのコーナーでは自分縛りで監督一人あたり一作にしていたので書くことはできなかったが、直前の二本の反共プロパガンダ、駄作でしかなった『引き裂かれたカーテン』1966『トパーズ』1969のせいで評価の下がったヒッチコックの『フレンジー』1972をおもいだす。これもアンソニーシェーファーの脚本。これは遺作ではないが、この後の悪人ばかりのコン・ゲーム映画『ファミリー・プロット』1976と共にヒッチコック世界を再構築して世を去った。老監督の再起ということでは、前二人と並ぶ奇蹟であった。唯一、廉価版のDVDが存在しています。