堀大司に再会する

この人の名前と初めて遭遇したのは、不思議な全集『世界人生論全集第4巻』サー・トマス・ブラウン『医師の宗教』筑摩書房1964だった。今では復刊さえも望めそうにない全集名だが、抄訳が含まれるにしても、この全集でなければ読めない作品が犇めく、日本では珍しいエッセイの集成だった。勿論好みがあるから全巻読めたわけではないが(なんせ、プラトンからチェスタトンまでを包括する広大なものだったし)当時は入手しづらかったロバート・バートン『憂鬱症の解剖(恋愛解剖学)』がほしくて買ったのを覚えている。ところが、この巻はまことに曲者揃いで、アイザックウォルトン『釣魚大全』セルデン『卓上談』など、英国近代のへそ曲がり揃いだったのである。訳者も匆々たるメンバーだったが、その中で一番惹かれたのが『医師の宗教』であり、堀大司だった。それ以降、その著訳者の作品を探すとなく探していたのだが、なかなかお目に掛かることが出来なかった。
やっと、彼の訳書に巡り会えたのが、八重洲ブックセンターの開店時だった。各版元の在庫僅少本を掘り起こして店頭に並べるキャンペーンの一環で、堀大司訳このウォルター・ペイター『ガストン・ド・ラトゥール』が新樹社のコーナーにあったのだ。そう、逍遙訳『シェクスピア全集』の端本在庫と一緒に。
結局、さきの『医師の宗教』と共に、手元を離れて、ずっと探していたのだけれど、先日の古書市で、再度目通りが叶ったのである。未完だという、この小さな本に籠められたもう一つの〈ルネサンス〉に、ゆっくりと浸ることが、また出来るとは、本読みの至福に違いない。後は、『世界人生論全集第4巻』だな。