夢の一日講義三昧 時とところのアラベスク(六)

すっかり、この通題が気に入ってしまったようだ。しばらく続けよう。十月三日、午前中は古いデジカメ画像の整理。作業の合間に撮り続けた丸の内の建物 ETC.だ。先日見かけた「千代田ビル」の現況の哀しさを、自分の画像から思い起こそうと思って。

前日、新しい勤務の疲れで、早々に退散しようと思っていた「ですぺら」だったが、思いもかけぬ『出世をしない秘訣』の元版が置いてあって、結局、その話から話題が拡がり終電まで。元町高架下で、三年前に購入したそうだ。何でも副題の「すばらしきエゴイズム」に惹かれてのことだったそうで、明敏なアンテナは健在ですな。
写真の整理を終えて出かけようと思ったが、起きがけから感じていた足のむくみが抜けず、滅多に入らない朝風呂に、ゆっくり入る。やっと出た『戦後ギャグマンガ史』を持ち込み、上げ蓋において読み始める。ノンビリしているうちに足先のだるさが少しとれたようだ。
が、午後からの予定を思い出して、急にあわて始めた。写真の整理に手間取ってもう十二時を廻っている。ジタバタと準備をしてなんとか一時前には家を出る。昨日に引き続き雨模様なので、歩いて駅まで、さすがに、朝飯抜きなので、現地に到着してから、どこか探すことにしたのだが、それが、まず失敗。駅の階段を出てすぐのところに看板があって、韓国料理屋にはいる。よりによって急いでいるのにカルビクッパを注文した。美味いが熱い。口中をヤケドしそうで、早食いが出来ない。なんとか十五分前に食べ終わって目的地の明大に向かう。食事後に急いだものだから暑くもないのに汗が噴き出る。なんとか開講の五分前に入場できた。コーディネーターでいらっしゃる高遠さんをお見かけしてご挨拶。お久し振り。
講師でいらっしゃる佐藤亜紀さんが数分遅れて入場される。連続講義ということで、前置きもなく講義に入る。

オットー・ディックス

フランシス・ゴヤ
オットー・ディックス(上二枚)とフランシス・ゴヤ(下)の作品から(両方とも戦争がテーマである)表現と事象の乖離について、二時間近く。歯切れのよい口調と明確な論旨は、老耄の耳に心地よく入ってくる。エゴン・シーレを例にとって図版での鑑賞と、実作品を直接見た場合との印象の大きな差も取り上げられる。

ヴェルベデーレのオーストリア絵画館はじぶんもウィーン旅行時にいっていたので、佐藤さんの仰有る印象がよくわかった。何より『バルタザール』以来の憧れの方にお目もじ出来て、その表現の根っこにある「リアリティ」の本質を、直接ご本人からうかがえたのは嬉しかった。
講義終了後、高遠さんに『逍遙』三冊をお手渡し。辞去する。一旦帰宅かとも思ったのだが、入浴の所為か身体も大分軽くなったので三省堂脇の「古書モール」へ。ラディンさんの危惧を余所に、今回も血風。ラモン・フェルナンデスの『青春を賭ける』後編、なんと併載のダビ『北ホテル』訳者岩田豊雄水谷準宛書名入り! 探していた新潮社海外文学新選、ドゥ・ヴィニイ『チャッテルトン』等々。モールに二時間半。おなか一杯になって松山俊太郎さんの講義へ向かう。本日は「世界観 仏教に於ける進化」がテーマ。終了後、「珍竹林」に向かう道すがら見上げた空の雲間から満月が見え隠れしていた。で、恒例の饗宴、充実感一杯のご帰還でありました。