窖の音楽会 時とところのアラベスク(十一)

ミステリー文学資料館で行われた、平山雄一氏による「小栗虫太郎 講演会」に出席してきた。
少し早めに到着して併催の展示陳列をチェック、書棚を拝見して、寄贈本が並んでいるのを見て、若干感動する。愛読者のお一人、Iさんが到着してご挨拶を頂いた。数少ない小栗ファン同志のお一人、Wさんとも会場で、ご挨拶。「会場へご案内」の声で向かう地下の通路は、あたかも、黒死館墓窖の迷路も斯くやと思わせる楽しい道行きでありました。初めて使う、お嬢さんのだというIpodと取っ組んでいらっしゃる講演者平山氏と簡単な挨拶。会場内は新青年研究会のお歴々を始めほとんど満席状態で、権田館長、戸川さん、新保さんも向かいで着席されている。お隣は、なんとやっぱりプヒプヒさんでした。
演題は「小栗虫太郎黒死館殺人事件』の音楽」、ブログで日々拝見している、注釈についての講演かと思ったのだが、これは、素晴らしいサープライズ。作中に登場する音楽関係の言葉を、実際の音源を流しながら解説なされるという、音楽趣味の豊富な平山さんでなくてはできない見事な企画であった。
例えば、四人の帰化入籍者のモデルであるカール・テオドル宮廷の「マンハイム楽派」であるとか、ディグスビイの楽曲のモデルになったオックスフォードの音楽の先生、ジョン・ステーナーの作品などなど、虫太郎の音楽趣味を満喫できた音楽会であった。全十四曲にわたる楽曲には全て平山氏による解説がつき、充実したレジュメで補強されており、カリヨンの音と演奏風景、グラス・ハーモニカの形状など実見された事柄も含まれた貴重な証言でありました。また、オンド・マルトノに関しては、新青年研究会の末永氏より懇切な補強意見が提出され、平山さんが感心されるという、濃ーい状況も見ることが出来ました。
講演終了後の、ディスカッションでは、東洋大の方が倍音の五線譜表示の誤表記について、板書までされて熱く語ったのが印象的でありました。それにつられたわけではありませんが、メインの講師、平山さんのご厚意や、列席の方々の苦笑いに包まれて、若干、素天堂が踏み外して喋りすぎたのは、出来れば忘れたいことであった。二時間を超える長く熱い演席を終えて、権田館長直々に頂いたご挨拶を始めとして、戸川さんに宿題をお渡しし、新保さん、平山さんには押し売りするという傍若無人な振る舞いの間に、お話ししたかったIさん、Wさんは退席されてしまっておりました。
職務に向かうK氏とともに会場を後に、途中の喫茶店で休憩。その晩の、松山さんの講習会と共に、充実した一日を過ごすことが出来た。