見事な廃墟 時とところのアラベスク(十二)


町歩きが続くと、あちこちで居住者のいない建物に出くわす。大概は門扉の閉鎖ぐらいで荒れ果てるという状態ではない。例えば遺産相続のトラブルとかで遺族が触れない場合でも、物納され管轄自治体の手で公園になったりすることが多いので、一般の住宅の廃墟はまず目につかない。たまにあっても和風が多いのだが、今回のは違った。大正末か昭和初期の郊外住宅の見本のような小洋館である。庭につるされた物干しが妙に生活感を感じさせるが、庭の半分近くを削って貸し駐車場が作られてあったが、勿論それも今は使用されていない。

細かい細工もよくできていて、あまり、見事なので職務中は遠慮して、休日に、カメラを用意して現地に行って来た。
午前中で幸い日差しが理想的だった。ガレージに放置された車を見て驚いたブルーバードの初期型なのである。


荒蕪の状態を見ても一体いつから放置されていたのか見当もつかないが、居住者が手を入れた後があるにはあった。

どんなドラマがこの家を覆っているのか知らないが、この状態を放置させるには、大変なコストがかかっているのだろうと思う。個人住宅の廃墟がここまで保存されているのは、奇跡に近いだろう。