鳥なき里の鳥瞰図


一月九日は、日月堂さんの仕事始め。昨年末の松屋古書展で当たった『the Mask』八冊を受け取りにいかねばならない。もう一つ用事があったのだが、それは後回しでも問題ないので、ゆっくりと出かけた。K氏に神宮前で降りると言ったら怪訝な顔をされたが、表参道駅の言い間違いだった。今調べてみたら、千代田線明治神宮前駅の開業は1972年! あの駅が昔は神宮前といったことを知っている人の方が少ないかもしれない。人生の半分以上を過ぎながら、未だに銀座線の駅名を取り違えている。これでよく外つ国のあれこれを言ったり書いたりしているものだ。
今日の受け取り本は1924、5年の発行である。虫太郎が直接見ていた頃から若干年代は下がっているが、持っていたい本ではある。先日訪問した時に一部を見せてもらって、英語は不自由であるが魅力は判っていた。フィレンツェで刊行されたゴードン・クレイグの個人誌で、年四回刊(初期は月刊だったらしい)毎号一テーマで、演劇仲間による世界各地の演劇情報や、演劇書の書評、さらに当時の出版関係の広告が面白い構成で作られている。用紙、活字、挿画の選択に至るまで、二十世紀初頭のエディトリアルの最高作と言ってもいいだろう。
そんな中の一冊に地図の複製で埋まっている号があった。
ノートルダム寺院部分
日月堂さんも素天堂(こう並べると、自分もまるで古本屋みたいだな)も、地図に眼がないから、クレイグと地図の関係が判らず、首をひねったことを思い出す。天下晴れて自分の所有になったので、早速調べてみた。判るところだけ拾い読みしてみると、どうやら十八世紀初頭の有名な地図らしい。その地図を全二十枚全て復刻したものであった。中世のたたずまいを残す1552年のthe Plan de Bale 木版地図と共に、

オスマンのパリ大改造以前の雰囲気を知る重要な資料で、現在でも一部は復刻版が

市販されているようだ。
実物は大変大きなもので、復刻されたものは実物大だと思うが、幅83cm、高さ63cmもあるらしい。
全体像を見ていただくにはあまりにも情けないが、雰囲気だけでも味わっていただきたい。

もしかすると、何処ぞのパン屋さんの包み紙で見たことがあるかもしれない。
当時既に航空写真は始まっていたし(同号の口絵はヴェルサイユ宮殿の航空写真だった)、今なら全世界ほぼ埋められた、航空写真地図を見ることが出来る。とはいえ、鳥なき里と書いたけれども、やっぱり古地図の味は、空から見下ろすイメージとしての鳥瞰図にある。まあ、意外な拾いもののご紹介である。