マニエリスムの時代

先日、ひょんなことでできた時間を使って、銀座へ。まっすぐに向かった先は「プランタン」の先の小さな画廊「スパン・アート・ギャラリー」。故・種村季弘氏の回顧展である。「オマージュ 種村季弘」と題した企画の前半、「マニエリスム種村季弘」のほとんど最終日。最初の著作であった三一書房の『怪物のユートピア』が欠けていたり、不充分ではあるが書誌の展観を始めとして関係する画家や作家との交流が忍ばれる小さいけれども見応えのある展観であった。
普段はあまり覗かないショップのスペースに入ると、棚にこの画廊らしい画集に混じって、前日知って探すつもりだった

お言葉でございます

お言葉でございます

が並んでいるのに目をむけた。後で考えれば当然なのだが、その時は一瞬、偶然に驚いた。しかも直筆署名識画いり。思わずうれしくなって高山さんのことから、松山さんの話、終には遙か昔、美学校入学以前の種村さん話まで話し込んでしまった。名乗りもしない爺の昔話に付き合ってくださった画廊主の方は種村さんのご子息で、晴海のお宅に伺った話をしたら、当時は小学生だったそうである。
69年という洋数字で書くと妖しい一年間は、自分にとって大転換の年でもあった。以前から『小遊星物語』、『迷宮としての世界』の訳者として遠くから見つめていた種村さんご自身の謦咳に接し、構築中のマニエリスムについて講義を受けられるという大幸運の年であった。もっともっと話したいこともあるが、半世紀に後一息のあの時代に、一挙に連れ戻された幸せな時間であった。