三冊の重い図録

三重県立美術館のIさんから、図録「20世紀日本美術再見3−1930年代」1999を贈って頂いた。掲載のIさんの論文「ふわふわ、きちきち、ずずずず、あるいは黒死館の影のもとに」は、ネット活動初期の素天堂を勇気づけてくれた大事なもの。それにしても凄い構成だ。感想は改めてブログで・・・>などと某呟きに書き込んだままだったのは、「再見シリーズ」の先の二点を手に入れてから、と思っていたからだが、先日早々と送って頂いた二点の単館企画とは思えない充実振りは、想像を上回る見事な展観であった。「1−1910年代」1995、「2−1920年代」1996はある意味先駆的であったといってもよい。所謂表現と名づけられる、美術、工芸から建築までジャンルのすべてを取り込み、正確な史観で組み上げた構成はIさんが仰有っていたような、突っ込みどころどころか賛嘆しか浮かんでこない。
「3−1930年代」とほぼ同時に開かれた、鎌倉の神奈川県立美術館の「モボ・モガ展」1998を嘆賞したものだが、全部合わせたら、それを上回っているではないか。残念といえば唯一つ、展観の名付けが地味だったこと。一回目の副題「光り耀く命の流れ」の生き生きしたコピーが勿体ないくらい。一昨年各地を巡回した「躍動する魂のきらめき 日本の表現主義展」を名古屋まで追っかけてみたが、それを凌駕する名展観であったろう。
黒死館フリークの一人として、松野一夫の原画は是非見たいものの一つだった。また同時に展観された、最近個人的に話題の中心である新版画の重鎮、小野忠重の連作『三代の死 字ノ無イ小説』は、同じプロ系のベルギー人フランス・マセレールFrans Masereelの模倣から始まってと思われるが、残念ながら、オリジナルの描線の鋭さは全くない。ある意味貴重な展観であった。
 マセレール 
   小野忠重