薔薇と洋館と大手羽

夜中の雷鳴が嘘のようなすっきりした朝であった。K氏がセッティングしてくれていた「旧古河庭園」散策へでかけるのである。若干寝覚めが愚図ついたが、せっつかれて出発の準備をして立ちあがる。ポスターやTV番組で興味はあっても、素天堂の重い腰はなかなか上がらないので結局、計画もまかせっきりでK氏におんぶにだっことなります。おまえほんとうにみをすくませてるのか? はねをのばしてばかりじゃね?とか突っ込みがありそうな今日この頃。

秋葉原乗り換えで、上中里下車、目的地を同じくする方々と坂道を上り本郷通りへ出る。腹が減ったと騒ぐ素に気を遣ってラーメン屋の前まで行ってくれたが、気乗りしないので、「我慢する」などという素天堂であった。まだこれから行くところがどれだけ凄いか分かっていなかったのです。大分増えた人通りと一緒に、入口につくともう結構な行列が出来ていた。薔薇真っ盛りという旧古河庭園の人気をなめていたとしか言いようがない状態でした。

邸内に入ると最初に目につくのが写真で有名なジョサイア・コンドルの名作「古河邸」の黒い偉容だ。近づいてみると、壁面に使われた石組みの迫力は圧倒的で、やっぱり実際に訪れてみなければいけないというのは鉄則で、それは後でも感じた、今日の教訓でもありました。薔薇に夢中なお客を避けるように広い和風庭園へ降りて行く。ゆったりとした空気を感じながら外周を一回りして芝生越しに、英国カントリーハウスの雰囲気を実感する。

本館に戻ってみると館内の喫茶室に待たずに入れそうなので、靴を脱いで入館してみた。たっぷりと空間をとった喫茶室はなるほど贅沢な気分を味あわせてくれる。寛いで出口に向かうと、さっきはすんなり入れたのに、受付には長蛇の列ができていた。運がよかったとしか言いようがない。
小さな買い物をして、古河邸を後にする。腹ごしらえは、さっき見ていた通りすがりの日本そば屋さん。せいろ大盛りで大満足。K氏ご推薦の紙の博物館を目指して本郷通りを北に向かうと、路上の案内にゲーテ記念館の表示が、ファウストで調べ物をしていたときから気になっていた施設なので、飛び込みでいってみることにした。必殺地番攻めの秘技を使ってなんとか裏通りから記念館へ。まさかあんな立派な建物だと思っていなかったので、思わず気後れして入口までいって帰ってきてしまった。そこから本郷通りに出ると、立派な案内板も道路標示もある.お見それしました。

本来の目的地のはずの紙の博物館に改めて向かおうとしたが、その手前で気になる表示をまた見つける。寄り道ばかりだが、K氏の了承を得、「青淵文庫」の看板に惹かれて入って驚いた。大きくはないが端正なたたずまいのタイル貼りが美しい建築だった。渋沢栄一が収集した論語に関する資料を保管するための史料館だった「青淵文庫」は、完成直前、関東大震災のため資料が壊滅するという哀しい運命を辿った。同じ敷地内の栄一喜寿の祝いに贈られた迎賓館「晩香廬」は、ここも小さいながらゼツェッション風のモダンスタイルが美しい建物だったが、逆光でキチンと撮影できなかったのが残念。

飛鳥山公園に出るとすぐに「渋沢史料館」が眼について、国立第一銀行の錦絵につられてまたまた寄り道、結局、紙の博物館は後日ということになった。公園を降りたら行きたいところがあるという、K氏の希望で、王子の駅前に出る。なんでも王子の駅前に古ツアさん推薦のいい古書店があるというのだ。ここも、秘技地番攻めで探し出したが、聞きしに勝るいい本屋さんだった。二人ともソコソコの買い物で表に出たらもう六時を回っていた。
錦糸町へ戻り、前にいって気に入っていたお店で、一服のつもりがしっかり腰を落ち着けて家に着いたらもう九時近く、よい子は歯をみがいてお休みの時間になっていた。