メリエスの風を浴びに 『メリエスの素晴らしき映画魔術』


アニメーション、幻想映画がずっと好きだったのに長い間お付き合いのなかった映画館の一つ。映像出版物や雑誌ではお馴染みだったイメージフォーラム、行ってきました。当時出たばかりの『SFマガジン』誌上で小さな図版で見て憧れた月に大砲の弾が当たったあの画像、文字通り小学校以来の夢だった、メリエス月世界旅行』を映画館で見るという経験。しかも、カラー作品だという。場面毎にフィルムの色が変わる着色作品は何度か観ているが、実際に映像に着色したものは全くの初体験なのだ。

同時に公開されたドキュメンタリで、エピソードに登場する、たくさんの女工たちの手作業で行われた、全面着色映画という原始的だが着実な工程も楽しい見物だった。映画が見世物という消耗品だった頃の、落魄したメリエス自身のフィルム焼却という哀しいエピソードから、シネマテークによる芸術としての遅すぎた再評価、地道に行われる作品の探索発掘と、再生に向けたすさまじい努力。着色作品復元までの長い道程が描かれる。
見つかったセルロイドフィルムの無残な状態から、復元作業のための技術が追いつくまでの長い雌伏期間と、コンピューター処理がそれを可能にした、デジタルリマスターによる復元の達成。映画という新しいメディアでありながら、興行作品としての作品意識の低さが保存を考慮しなかったジャンルに関する、再認識を求める、声高ではないが真摯な問題提起がここでは語られていた。

映画が、まだ絵が動けばよかった時代に造られた、人類史上驚くべき作品がここに登場する。大上段に構えた言いぐさなどいうも愚かな、始まってしまえば華やかで楽しいあっという間の十五分だった。当時叶う限りの技術を使い、人々に驚異を与えた作品を、しかもオールカラーで眼に出来る幸せを満喫した時間であった。