『ヨカナーン』よ、ヨカナーン。そなたは何故ヨカナーンなのか

Nazimova SALOME
終日、目一杯『サロメ』三昧。ナジモヴァものと『ケン・ラッセルサロメ』で。
『ダクダク 二号』新刊作業中、古い映画の女優さんが気になった。今回所収の田中香涯の記事中に添えられたものだった。変態女性の見本とされた『サロメ』映画のスチルの「ナジモヴァの扮したサロメ」とキャプションされた写真だったが、締め切り直前の修羅場の最中でもあり、もとの映画を直接調べるなどできるはずもなかった。ケン・ラッセルの映画『ヴァレンチノ』に登場する名女優としてアラ・ナジモヴァの名前だけは知っていたけれど、それがネットで見られるとは思いもしなかった。
salome herod roi  
herodias
正月の松もあけて、懸案だった、ナジモヴァ画像でも集めようと思ったら、思いの外画像も多く目移りしているうちにネット上で、全編鑑賞可能なサイトに出会った。
日本では戦後ほとんど上映されたことがないらしい幻の作品だというが、全編を通した印象は、サロメ役のナジモヴァの年齢を感じさせない愛らしさと、ヨカナーン登場後の決然とした表情の対比のすばらしさ。ヘロデ王の古典的な演技と、サロメの母親ヘロディアスのモダンな演技の対比。ロシア出身同士でナジモヴァの友人のセット・デザイナー、ナターシャ・ランボヴァのビアズリーの原画をもとにした装置がまた見事なのである。
dwarfband jokanaan  
 
salome-peacock
封切り当時は米国内部ではほとんど評価されなかったらしいが、ヨーロッパ世紀末風の洗練された映像美が、マック・セネットのお笑い大会に誘われる観客層に受け入れられなかったのも当然かもしれない。背徳的な題材と、微妙な表情で再現される心理描写の凄まじさは、一見の価値があろう。画面キャプチャー作業で細かく画像を見てみると、繊細なナジモヴァの演技が際立ってくる。
 

これを何回も見直しているうちになんとなくケン・ラッセルの同名の映画の印象が、重なって見えてきた。幸い手元にあるケン・ラッセル作品を見直してみると、ヘロデ王の演技など匂いは近いが、フル・バージョンの台詞劇と簡略化された字幕ストーリーの相違もあって、映画全体を覆うケン・ラッセルの演出は、数倍作品に世紀末の腐臭を漂わせていたといっていいかもしれない。
     
  
ナジモヴァの作品を知るまでは『ケン・ラッセルサロメ』が一番ワイルドに忠実だと思っていたが、世紀末感は数等こちらが上だと知った。
narabothx