生まれて初めて尽くしの一ヶ月 I ああ!松島や之巻

十一月の文学フリマが終わって、いよいよ年末のコミック・マーケットに向けての作業が始まった。その前にと言うことで、生まれて初めて個人的に東北地方の土を踏んだ。
古本屋のない目的地など考えられない、名所も旧跡も興味ないが、これまでの素天堂の旅のセオリーだったわけだが、名所のおまけに巨大古本屋さんをつけるという誘いに釣られて、台風接近の不安な空模様の中、宮城までいってきました。
早朝出発の長距離路線バスで、新宿から東北道経由で仙台までいき、まだ、全線開通されていない仙石線で、松島海岸へ直行です。駅を出てすぐ下にある「大松荘」が今回の宿泊先である。部屋に荷物を預け、早速海岸散策に。

聞きしに勝る松島湾内の奇勝を眺めながら、最初の施設は、江戸品川から移築されたという「観瀾亭」。伊達家代々の観月亭として使われてきた小振りながらも趣のある建築である。邸内には伊達家由来の家蔵品を展示する博物館が併設されていた。本邸の障壁図も見事だったが、博物館に展示されていた京都で描かれたという「松島図」が、絵葉書が欲しい位素晴らしかった。
その先に、五大堂や福浦島への朱塗りの橋も見えたが、「観瀾亭」で時間を使ったこともあって、今晩の晩酌洋の地酒や土産を数点買って宿へ戻った。
あとは恒例の温泉と晩餐だが、とにかく美味しい魚を中心に品数も多かった。美味しいお酒と晩餐でお腹いっぱいで、まさか朝食もヴォリュームたっぷりだと思わず、早めに休みました。

雨上がりの街に出て、昨日見ておいた今では珍しい、風見鶏のついた三角屋根の保育所から路地の裏へ廻って最初に入ったのが「円通院」。地味な受付で入場手続きをして一歩踏み込むと、そこは全くの別世界だった。小堀遠州作といわれる紅葉が僅かに始まった楓を中心に、苔と砂で造られた庭園に沿うように、手入れの行き届いた甃はしっとりと濡れて、奥に作られた夭折の君主伊達光宗を祀った三慧殿へと続く。三慧殿は、中に紅顔の騎馬武者姿の愛らしい光宗像を収めた御霊屋が納められ、平泉の金色堂ほどの大きさではないけれど、伊達家の威光を感じさせる絢爛たるものだった。

我々は朝一番に入場したお陰で、庭園とそれを取り囲む奥まった洞窟群をゆっくりと鑑賞することができた。周辺は、昨日の「観瀾亭」もそうだったが、江戸期以来の繁栄を感じさせる由緒ある建造物が多く、団体で賑わう修復中の「瑞巌寺」の境内には入らなかったが、それでも当地の地勢の特殊性による洞窟群など、歩いて退屈する暇もなかった。

その後の今日のメインイヴェントである、松島巡りの遊覧船だが、K氏の提案で、一旦、塩釜港まででて、塩竈神社を参拝することにした。小雨もよいの中、長い正面階段から参拝したものの、登るだけで草臥れて、後は帰るだけで駅前でお茶。

松島海岸まで戻ったもののまだ夕食まで早いからと海岸から、昨日いけなかった五大堂を目指す。そこまで行くとまた元気が回復したようで、その先の赤い橋が気になる。

まさかあれ程大きな島だとは思わなかったが、日暮れも近い中、ほとんど人影のない島を一回りして赤い橋を戻ったところでまた雨が降り出した。まだ早いのだが、結局夕食用の酒を買って帰った。