ゴシック・ロマン アルレー風

sutendo2008-05-25

K氏が地元の本屋さんの、見切りの棚でみつけた『黒頭巾の孤島』、カトリーヌ・アルレーだというのだが、妙な題名でもありちょっと食指も動いたらしい。素天堂としては、『わらの女』以来、この作家の作品を手にとったことはなかったし、まさかそれを読むことになるとは思わなかったのだが。読後の感想を聞いたら、なんだか面白そうなのでちょっと借りてみた。お決まりの状況設定、スイスの寄宿舎に幽閉状態の少女、仕事もあやふやな父と、その死。伯父だといういかにも胡散臭い男と、彼の領地! だという北の孤島へ引き籠もらされる。そこには伯父の腹心の女秘書と、黒頭巾の使用人達や同じく黒頭巾の伯父の患者が彼女を待ちかまえていた。
どうです、いいでしょう? その上、主人公の少女は好奇心旺盛で、出入りを制限された邸内をまるで、遊園地のお化け屋敷でも探検するように歩き回るのだ。気分は『秘密の花園』である。ナチの大物戦犯や、マフィアの大立て者との怪しい関係などなど、そこで見出す〈恐るべき〉秘密は、少女を追いつめ、それにも懲りずに伯父だという人物の秘密に肉薄してゆく。最後に知り合った不思議な女性との会見は、主人公を伯父の持つ最後の秘密まで、後一歩、もう一息のところまで近づけたのだったが。その晩彼女は好奇心故に、何ということか、最後に出会った女性の、死と奇妙な葬儀に立ち会わされてしまう。極寒の地の夜更けの葬儀は、あまりにも恐ろしげで、目撃した少女の恐怖は、極限にまで到達するのである! 
恐怖に駆られた彼女は、伯父とその領地から逃げ出す為に、氷漬けのバルト海を、何と、スケートで隣の島まで向かうのである。勿論、氷漬けといっても海全体が氷で島を繋げられる筈もなく、疲労困憊した彼女は、前日〈マフィアの大立て者〉を運んだヘリコプターによって、連れ戻されてしまうのですよ!さあ、彼女の運命は。という所であらすじの紹介は終わりにする。
それにしても、邸内の描写といい、若干問題はありながらも魅力ある主人公といい、いかにも古くさい題材なのに、作家の力量は、決して読者を飽きさせない。良質のゴッシク・ロマン・パロディに仕上がってもよかったはずなのに、この大笑いさえ誘う終わり方は、いったい何なんだ。といいたい。