幻の幻影 映画化『黒死館殺人事件』

いわゆる2ちゃんに、恐るべし『黒死館』を語るスレッドがあるのは知っていたが、そのあまりの建設性の高さに辟易して、ちょっとご無沙汰していた。先日久しぶりに覗かせて貰ったら途轍もない大ネタが転がっていた。2ちゃんねるとはいえ、構成された方がいらっしゃるのだから全文の引用は差し控えるが、ここに飛んで372をご覧になって頂きたい。
川喜多長政製作というのがミソで、彼は翌年ドイツとの合作映画『新しい土』を完成させている。虫太郎のエッセイでも明らかだが、虫太郎は「東和(商事)映画」配給映画の大ファンなのである。
さらに、スタッフ・リストにあげられている撮影者リヒャルト・アングストはこの映画を撮影している。この映画のドイツ版監督は、怪女レニ・リーフェンシュタールの育ての親、山岳映画の巨匠アーノルド・ファンク。
装置はワルター・レーリッヒ、『カリガリ博士』の美術、『会議は踊る』の装置担当である。『黒死館』映像化に最もふさわしい陣容ではないか。
脚色は怪優大泉晃のお父さん、大泉黒石、脚本家としては不明だが、溝口健二の日活向島での表現主義作品『血と霊』1923にロシア語からの翻案者として関係したこともある。

資料に使われたという横山大観の大作の装幀による『日活四十年史』だが、もしそこに書かれたページ〈折り込みのグラフである〉から上記の内容を読みとっているのであったら、これはある意味、眼光紙背に徹した見本であろう。とはいえ、戦前の日本映画の中核であったこの映画史は、確かに貴重な資料であることは間違いない。
役者リストについてはまた語ることもあるかもしれないが、そのラインナップにオールド・ムーヴィー・ファンは、涎を流されているにちがいない。ほんとうにすごい。