セガンティーニ『よこしまな母』


『空飛ぶツィプリアンの伝説』をみていて、主人公ヤセクを囲む人々のあまりにも過酷な前半生に打ちのめされる思いだったが、その頂点が、若いミハルとの別れで気づかされた、彼の母との甘いとは言えない逢瀬と引き裂かれた過去との出逢いではなかったか。子供同然に可愛がったミハルが、その好奇心を院長から叱責され、修道院を出る傷心の中で渡された十字架の首飾りこそ、彼女にヤセクが贈り、彼女が不義の子であるミハルを修道院に棄て、門前で縊れた十字架だったのである。彼女の死を想い、大地に身を打ち付けて嘆傷するヤセクの絶望は察するにあまりある。修道院の荒涼とした庭の光景、木に下がった恋人の姿で、ある、不思議な絵を連想した。果たしてこの母は、どんな罪を犯したのか。運命にもみくちゃにされる薄倖の母性を哀しく描いたスイスの画家、セガンティーニの作品である。