スクリーンで見る『東海道四谷怪談』1959

渋谷シネマヴェーラ中川信夫の全貌」最終日。
 隠亡
数十年ぶりのシネマスコープ画面に繰り広げられる怨讐劇。低予算とヤケッパチが生んだ奇蹟の傑作。
研ぎ澄まされた緊張と、画面の切り替えが織りなす恐怖の素晴らしさ。主演の、お岩、伊右衛門は勿論だが周りを固める役者も江見俊太郎をはじめとして、見事なはまりぶりである。一時間強の尺もあってストーリーは簡略化されているが、それも破綻になっていない。この間見た『怪談累が淵』1957が実は中川にとっての怪談一作目だったとは、もっといえばこの作品はたった二作目だったのである。『累』ではモノクロ画面でもあり、若杉の艶容さと北沢の可憐さを中心にして、恐怖という点では舟茶屋の茶碗三つのエピソードとか、篭の中に残された三味線の撥だとかシンボリックな技法が多く使われていた。
二作目のこの作品では、お岩の容貌の変化とお岩の登場による、より直接的な恐怖を描いている。隠亡堀の戸板返し、蛇山の庵の怪異のダイナミックな演出が際立つのは美術の素晴らしさとカメラワークだった。
  
歌舞伎とストーリーの考証に関してはこちらの素敵なサイトを。 『放蕩娘の縞々ストッキング!β
中川信夫フィルモグラフィーは愛情溢れるこちらで。『中川信夫を語り継ぐ者たち
ある意味、この作品のせいで、怪談映画ばかりがクローズアップされるが、作家的にはオールラウンドの監督であった。