取りあえず検索やってみました。vol.3

結局再度負け戦のご報告。ヒュヘランドほどの画期的な項目には出会わず、間が空いてしまったが、算哲図書室リストの中から何点か取り上げてみよう。
まず、デ・ルウジエの『葬祭呪文【ルビ:リチユエル・フユリアレイル】』に差し替えられた、ローデの「オルフィック密儀【ミステリオン】」。
ボーデン『道徳的痴患の心理【ルビ:デイ・ブンコロギイ・デル・モラリツシエ・イデイオチエ】』に差し替えられたのが、グロッスの「犯罪捜査法【ルビ:クリミナル・ウンテルジュフング】」。それぞれは候補が見つかっている。
そしてどうしても検索不能だったのが、レッサーの「死後機械的暴力の結果に就いて【ルビ:ユーベル・デイ・フオルゲ・デル・ポストモルクラー・メカニシエル・ゲヴルタインヴイルケンゲン】」に差し替えられた、バルドヰン博士の【死刑立会人の回想【エ・ウィットツ(ネ*)スズ・メモリー】」なのだ。
推測可能な原綴は著者BaldwinまたはBaldouinだと思う。問題の書名は“a witness's memory”。普通に読めば、witnessは目撃者だが、立会人との意味もある。然も虫太郎は、わざわざ死刑の語彙を付け加えている。禍々しさを強調するものかも知れないが、原綴はあまりにもシンプルな語彙であり検索さえ不可能だった。

取りあえず検索やってみました。vol.2

あったあったとばかりはいえないこの作業。続いては探せなかった人名、二件。本文は調査済みの、
グリムの「古代独逸詩歌傑作に就いて」かファーストの「独逸語史料集」でも、【第二扁】についての手稿での人名。
“ヂュストンか(ブ)ローブレンツでも、言語学の蔵書があれば”
さてドイツ言語学にこのような人名は登場するのであろうか。諸賢のご協力を乞う。

取りあえず検索やってみました。vol.1

註作業で残った不明語彙の一つに、フランスの心理学者シャルコーのエピソードとして取り上げられたケルンの聖ゲオルグ事件だが、手稿によると記述者はヒュヘランドとされ、地名もドウイスオルグになっていた。ゲラ校の際虫太郎によって現行のシャルコーに変えられたものだ。
“手稿版の語彙にまで手を出すのは”とも思ったのだが、このあんまりな語彙に興味を惹かれて調べてみた。ところがそのままの語彙で、早稲田大学の古典籍総合データベースの蔵書にあることがわかった。残念ながら一枚もののチラシであったが、きっかけができたので、もう少し調べてみることにした。幸い原綴が発見できたので、十八-十九世紀ドイツの医学者フーフェランドC.W.Hufelandにたどり着き、幕末期の洋学者、緒方洪庵などによって邦訳もされていたことが判明した。
これがその人
それにしても、虫太郎の情報収集力を再認識した。
さてもう少し手稿語彙に取り組んでみよう。

コミケ90 ご来場ありがとうございました。

BLの老舗大手サークルさんと隣り合わせるという意外な配置に驚きながら、沢山のご訪問を頂きました。持ち込んだウェルズの「星の児」もほとんど売り切りのご好評を頂きました。ありがとうございます。

コミケ90 夏コミ1日目東ク07b黒死館附属幻稚園出展します。

今回は「戦前『科学画報』小説傑作選別巻2 星の児 生物学的幻想曲」H・G・ウエルズ晩年の作品、ナチス台頭、独軍による英国本土爆撃の直前という危機的状況の中で書かれた異色作です。
昭和13年『科学画報』全9回掲載分(大平洋一訳)+未掲載の2.5章をあらたに訳出しました。
当時の最先端の科学的知見「宇宙線」の人体への干渉を盛り込み人類史の革新を予言した、もう一つの火星人との「宇宙戦争」作品です。
 A5 156p 1000円。
われわれの調査では戦後翻訳された様子はありませんが、後期ウェルズの観念的な面が如実に表れたもので、ある意味噴飯文庫的な見本といえます。
また、黒死館逍遥総集編CDROM、「黒死館学園入試問題集」、楽しい絵葉書集、虫太郎資料集ダクダク、戦前「科学画報」小説傑作選等、バックナンバー色々取り揃えてお待ちしております。今回もよろしくお願い致します。

キネマ博物誌 −映像による万有知の構築

丸の内キッテ2F「インターメディアテク」ACADEMIA、東大の旧階段教室を再現した会場でIMTカレッジ。西野嘉章氏と荒俣宏氏によるイヴェントを聴講してきました。ドイツで形成された映像コレクションの上映に対する、二時間の予定を大幅に超える古今百般の分野を縦横に語り尽くすノリノリの対談。

 二千本以上に及ぶ短編科学映画アーカイブは、生物学・民族学・技術科学の三分野に区別され、半世紀前の世界の姿を留めています。微生物の反応など肉眼で捉えられない現象を映画技術によって可視化すると同時に、失われていく社会慣習や廃れた技術を記録するという映像人類学的な役割も果たしています。(IMTホームページより)

  • 【E2163T】「バリ島カランガセム地区における音楽のリズム型」
  • 1973年製作/17分/モノクロ/16ミリフィルムをデジタル化
  • 【E0324】「凍結による砂土の土質構造形成(モデル試験)」
  • 1959-1960年製作/3分/モノクロ/16ミリフィルム
  • 【E0588】「西アフリカ・オートボルタのリマイベ族によるドーム型家屋の建築」
  • 1962年製作/9分/モノクロ/16ミリフィルムをデジタル化
  • 【E0050】「イヌ(Canis familiaris)の速駈歩
  • 1954年製作/2分/モノクロ/16ミリフィルムをデジタル化
  • 【E0310】「ヨシガモ(Anas falcata)の配偶行動における儀礼化した運動様式」
  • 1958年製作/5分30秒/カラー/16ミリフィルム
  • 【E0482】「西ノルウェーの水車鋸での板づくり」
  • 1953年製作/7分30秒/モノクロ/16ミリフィルムをデジタル化
  • 【E2353】「キャビテイション気泡の水力学的挙動」
  • 1972-1973年製作/7分/モノクロ/16ミリフィルム
  • 【E2314】「北グリーンランド・チューレ地方のエスキモーによる綾取り」
  • 1974年製作/9分30秒/モノクロ/16ミリフィルムをデジタル化
  • 【E2409】「レバノンにおけるガラスの水差しづくり」
  • 1975年製作/8分/モノクロ/16ミリフィルムをデジタル化
  • 【E1314】「ブデロヴィブリオの一種(Bdellovibrio
  • bacteriovorus)による、らせん菌の一種(Spirillum serpens)への寄生攻撃と細胞の溶解」
  • 1967年製作/8分/モノクロ/16ミリフィルム

以上十本の民族学、自然科学のジャンルから、対象を選ぶ以外は一切の演出をしない禁欲的な映像は、見る人のある種の感性を引き出すニュートラルな素材のすごみを見せて、現代の知を代表する二人から、存分にその持っている情報を引き出すという目的を達成出来たのであると思う。

虫本 キリシタン関係

長い付き合いといっても、そうそう巡り会えるはずのない虫本だが、今回は黒死館本文が、虫太郎によるフィクションであることの裏証明になる本が手元に来た。
青陵随筆 濱田耕作 座右宝刊行会 1947
戦後早い時期から美術書の出版に取り組んできた貴重な書肆から出された、濱田青陵最後の遺著。青陵は考古学の重鎮であったが、その興味の範囲は広く建築から、宗教学にまで及んだ。建築に関しては次の年に『橋と塔』が戦後再刊されたが、昭和初期のキリシタン関係書は残念ながら再刊されることはなかった。
黒死館に深く関わる天正少年使節について、参照することの多かったその『天正遣欧使節記』から漏れたと思しいキリシタン関係の随筆が二篇、この書に収録されいる。「天正遣欧使節の話 特に其の歓迎舞台面に現れた女性」に書かれたビアンカカペッロについての詳細、初出昭和八年四月『人情地理』と、「天正遣欧使節への贈答品」のリストは貴重。その中には勿論秀吉への献上品クラビチェンバロの詳細も登場はするけれども、重要なのは彼の聖宝類という記述にふられたレリケというルビだ。初出は昭和六年二月雑誌『徳雲』、もしかするとこれらが虫太郎のネタだったのかも知れない。
もう一冊も戦後のもの。『聖ザビエルの生涯と右腕の由来・奇蹟諸文献』吉浦盛純 鎌倉聖ザビエル会 1949
日本渡来四百年記念と扉に入った百ページに満たない小冊子だが、ザビエル聖人の聖遺物、右腕に関する数少ない文献。
ザビエル没後の経緯と右腕の起こした奇跡の記述は興味深い。