愛という名のスケベ心 三十棺桶島 モーリス・ルブラン 怪奇探偵ルパン全集4 星野龍緒譯 昭和四年七月 平凡社刊

sutendo2006-01-11

戦争が騎士道による白兵戦という美名から、大型兵器による大量殺戮の応酬に変わってしまった、第一次世界大戦の終決への言及からこの話は始まる。ケルト民族由来の凶凶しい名前の島に起こった、異様な大量殺人から始まる、猟奇と言うもおどろおどろしい事件に巻き込まれた女性の物語。
素天堂も、前にも言ったとおり、乱歩の少年探偵、ホームズ、ルパンでこっちに入ってしまった男の子の一人であったが、この本はなぜか初読である。読んでない本がたくさんある幸せは、日々かみしめているにしても、「奇巌城」「告白」「バーネット探偵社」と、お気に入りが数々ありながらなぜこの作品に手を出さなかったのか、読み終わって、後悔の念、しきりでありました。
奇妙な予言の成就と、運命に翻弄される魅力的なヒロイン。
背景となる、ケルトの古伝説や、夜な夜な現れる白い僧服のドルイド達の磔シーンにしても、まるで素天堂のためにあるようなこの作品であるが、喋っちゃいけないネタバレがとっても多くて、大笑いして一番喋りたいアレのことに言及できないのが悲しい。とはいえ、悪にしろ、善にしろ、フランス人という人種が如何に“愛”というものにこだわっているのか、形はともかく、その、強烈さには、まこと、圧迫されるものがある。「モーパン嬢」でも取り上げたことだが、愛という名で呼ばれる、彼等フランス人のスケベ心は、一体どこからくるのであろうか。
新潮社版堀口大学訳では「棺桶島 (新潮文庫―ルパン傑作集)」と省略されてしまっているが、三十という数字に意味があるのは、飲み屋のチェーン店「三十三間堂」が長すぎるからだろうが、「三間堂」と短縮されてしまったと同じで、遺憾な改悪であろう。
アップしてから二週間もたっての改訂だが、現物がでてきたのでイラストと書誌をいれた。