行ってきました。 炎の人 式場隆三郎―医学と芸術のはざまで―

K氏に誘われて市川市文学ミュージアムへ、式場隆三郎の生涯を回顧する展示を観てきました。生涯学習センターという大きな施設の二階と言うことでしたが、入り口がわからず、二階の広いテラスを丸ごと無駄に歩かされてしまいました。結局図書館の入り口から入ってエレヴェーターで二階に上がることに気づいてやっと目的の会場にたどりつきました。
会場は広くないものの、病跡学と美術の関係についての研究から、ゴッホという特異な人格への彼の興味と、それを形あるものに構築しようとする流れが十分に伝わってくる見事な展示でした。そこから始まって、ロートレックゴーギャンに進み、後には民芸運動に携わるようになる、式場の芸術への傾倒が要領よく纏められた展示でした。
そんななかでも、素天堂の建築に対する興味から、式場の「二笑亭綺譚」の展示でも少しはあろうかと来てみたのですが、二笑亭に関しても思った以上の充実した展示に魅せられてしまいました。
当時のモノクロ写真が戦災で失われたためとはいえ、終戦後に、木村荘八という名画家に依頼して、挿絵を差し替えて出版するつもりがあったとまでは知りませんでした。
なぜか、完成された挿絵原稿は式場に納入された後、式場邸内で行方不明になってしまい、結局画家の死によって荘八挿絵入りの「二笑亭」は実現しませんでした。後に木村スタイルの後継である三井永一の挿画入りで決定版は刊行されましたが、きっと心残りだったであろうと思われます。

一部が当時の雑誌に掲載されたまま、文字通り筐底に秘められた状態だったその画稿が今回発見され、多数展示されたのです。何枚かは式場の指定によるものと思われますが、着色されてさえいました。
それらは、丁寧に編集された図録に収録されており、申し分ないのだけれど、できれば、きちんとした形で、挿絵本「二笑亭綺譚」として世に出てほしいものだと思います。