時とところのアラベスク 三

先月、年に一度の映画館の帰り、気まぐれで木場から門仲へ足を延ばした。永代通沿いの喫茶店で、久方ぶりに、氷水を飲んででこめかみをキリキリさせた。お目当てだった古書店も休みだったし、帰宅しようと富岡八幡宮裏へ回ったら、境内で骨董市の開催中だった。たまに古本などもあるからとK氏を誘って、冷やかしに廻っていたら、一軒の出店で、こんなものを見つけた。写真は活版印刷だし、手彩色も雑なのが面白いので、つい手を出した。

もう一枚は、若干出は悪いが、カッパ版刷りで、手前に奇妙な建物があって、一目、大分後のものらしい。
とはいえ、K氏の日記にある絵葉書でごらんの通り、大震災で、塔頂部が崩壊した後は、再建されることもなく、アサクサ・ノスタルジイの中で語り継がれている。
素天堂の興味の範囲でいえば、虫太郎の『紅殻駱駝の秘密』にもでてくる「金車亭」はこの近所だった。そこに登場する「江川の裏手」といえば、当時倒壊したばかりの「十二階」あたりなのだ。
アングルは同じだが、池の周囲の石組みが変わっている、もう少し鮮明な写真と、その説明を見て貰えばおわかりのように、瓢箪池の畔にあるのが「大盛館」即ち、「江川の玉乗り」の常打館で、その奥は明治末に建てられ、大正九年には焼失した辰野金吾の設計による「浅草国技館」のありし日の姿なのである。
瓢箪池は戦後埋め立てられて、大きなビルに変貌し、戦前の面影は、周辺の小さな飲屋街に僅か残されているに過ぎない。